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 サーシャが2月になってヒートを迎えた。彼女は2013年8月、乳腺腫瘍で、右側の第4から5乳房を切除して以来、ヒートが不規則になっている。今回は1年以上の期間を置いて久々にヒートを迎えた。サーシャは11才という年齢でもあり、離れた静かなところで横になりたがり、いつになく辛そうだった。結局、2月5日から22日まで出血があり、17日以降は濃厚なフェロモン臭とともに淫部がこれまでになく肥大化した。
 6才になるリリーの息子アロハは、去年の11月のリリーのヒートの時以上に、サーシャに夢中になってしまった。とにかく排尿の数が多く、常にサーシャのそばに居ようとする。部屋を別にしても扉をガリガリ引っ掻き、近くに寄れるまで哀れな声を響かせる。サーシャは立っているとアロハにモーションをかけられるため、室内ではハウスの中か狭いところへ入ろうとするが、アロハは諦めない。
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 私は犬に対しての去勢手術はまだ受け入れられない。
 理由は大きく二つある。一つは、以前、去勢したオスのラブラドールを見たことがあり、それが魂の抜かれた肉の塊に見えたからだ。他の犬が近寄っても関心を示さず、ただ呆然とし、至近距離になると突然吠えて反撃する。体は動くのが容易でないほど肥満状態だった。犬のオスの去勢は、私にとって本能除去の残酷行為に思えた。
 二つ目に犬は猫と違って、受精後排卵ではない。卵子と精子の生命期間が一致して受胎可能となる。人間と同じタイプだ。ネコは交配行為が刺激となって排卵されるため、受胎は確実になる。このことは、リリーをブリーディングするときに偶然知った。つまり、イヌはネコ目に属するが、繁殖システムが異なるということ。進化の途中で、群れをなし始めたイヌ科動物は、繁殖システムにも変化が生じたのだろう。
 そんなことを考えながら、ウェブサイトでイヌの避妊を調べてみると、経口避妊法があるようだ。イヌの場合、排卵をコントロールするのではなく、発情を抑えるようにホルモン剤を経口投与したりインプラントとして皮下に埋め込む方法があるという。
 早速、近隣の獣医さんに問い合わせしたがほぼ全面断られた。「うちは手術しかやってません」。
ただ一ヶ所、理解を示してくれた回答を得られたところもあった。「インプラントを外したことがあるが埋め込んだことはない。どうしても必要と言うのならば大学に戻った時情報を集めてこないといけない」。



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 2017年はおだやかな気候から始まった。アロハが戻って初めての正月になる。
 彼はすっかり私たちの生活に馴染んだようだ。欲しいものがあると寄ってきて、顎を近くにもたれ、いつまでもじっと見つめている。
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 リリーは夜中、トイレシーツが汚れると、私を起こしに来る。
サーシャは室内で決して排泄しないが、リリーとアロハはよく水を飲み、排尿の回数も多い。朝晩散歩に出ているにもかかわらず、特に寒くなると、一晩でリリーは1回、アロハは2回くらいの頻度だ。
 2年くらい前から、私はトイレシーツが汚れたらすぐ取り替えるようにしていた。それを続けていたら、リリーは夜、自分で済ませた後、寝室に来て歩き回り、私を起こすようになった。眠い目をこすりながら名前をよぶと、彼女は大きく尾を振り、鼻先を来て欲しい方向に向ける。行ってみるとシーツに黄色い跡がある。それを新しいものに取り替えてやると、彼女は満足げに自分の寝床に入る。
 アロハが戻ってから、彼は雄のため、壁に向かって放つので、私は壊れたパネルヒータにトイレシーツを貼り付け、床に敷いたシーツの上に立てている。彼はそれに向かってうまく用を済ませるが、そのあとで汚れた部分を鼻先で外し、畳み込もうとする。うまく行けばいいが、時には裏表が逆になり、努力してもかえって収拾がつかない。そうすると、きれいな部分まで巻き添えになり、あたり一面シーツが引っ掻き回された状態になってしまう。
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 3頭の中でリリーは一番細くて小柄であるにもかかわらず、いつもクィーンだ。食事時、私たちの足元でおこぼれを待ちながら伏せているのは彼女で、サーシャとリリーが近寄ると低い唸り声をあげながら睨む。彼らは遠くでこの華奢なクィーンが場を空けるのを待っている。
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 3頭を連れての移動は車が多い。
 アフガンのサーシャは、座席を倒した荷台に乗り込むと横になり、そのまままったりとしている。
 一方、サルーキのリリーは落ち着かない。外をあちこち見回しては、後ろから助手席へ、また戻ったりの繰り返し。いつの間にか気に入った場所で毛布にくるまって丸くなっている。
 リリーの息子アロハが来たら、彼は助手席がお気に入りらしい。足元のスペースに台を入れて前足を伸ばせるようにしてやったら、大きな体を伏せ、顎をフロントパネルにもたれて進む方向を眺めている。運転席から見ると、隣に誰かが乗っているみたいだ。彼も自分が私と同じ生き物だと思っているのかもしれない。

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 この季節、銀杏の木の下がとても明るい。大木の周りに黄色の落ち葉がさっくりと積もっている。雄株の周辺を歩くと、強烈な匂いの実がない分、銀杏葉のみずみずしい香りがする。
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 犬たちにとってはその実のほうが好きなようだ。
 以前、うっかり雌株の木のそばを通ったことがある。目敏いリリーが一粒食べ始めたら、サーシャもアロハも落ち葉の中に鼻先を入れ、あの匂いを求めて夢中になって動かなかった。
 私たちが納豆やチーズを好むのと似ているところがあるのかもしれない。
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 11月5日から9日まで、アロハは一食も取らなかった。
 いよいよ恐れていたリリーのヒートが来てしまったのだ。彼はそれにぞっこん夢中になり、朝早くから夜中まで、リリーが動きを変えるたびに、吠えたり唸ったりを繰り返した。大変だったのはマーキングの回数。オシッコシーツを日に何度取り替えたか数え切れない。
 リリーは一切拒否を続け、バリケンの奥に避難した。
 部屋を別にしてもアロハはどこまでも着いてくるほどの勢いがあり、私の声など彼の心に届かない様子だった。
 結局丸一週間、うち5日は絶食状態で、アロハは本能の嵐に巻き込まれていた。周りがほとほと疲れ果てた頃、彼の嵐は食欲と入れ替わるように速やかに鎮まった。
 我に返った彼は、ようやく私の存在が一番になり、家では私の後をついてくるようになった。まるで遠くに行った息子が戻って来たような気がする。
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 先日、トビに拐われたチワワの話を聞いた。
 その飼い主は、公園で散歩仲間と話に夢中になっていたらしい。突然、一羽のトビが舞い降り、あっという間にリードが手からすり抜けたという。空中に垂れたリードのまま連れ去られる愛犬を唖然と見つめるしかなかったようだ。
 後日、偶然河原で、地面に降りているトビを見つけた。少しずつ近寄って見ると、意外に大きい。小型犬ならば簡単にあの爪でワシ掴みされそうだ。もっと近づいて写真に撮ろうとしたが、トビは犬たちの動きが気になったのか、頭をわずかに傾けた後、翼を広げて飛び立った。その泰然とした羽ばたきがスロー画像を見てるようだった。低空で弧を描きながら私たちの様子を窺っている。少しの怖さと野生の神々しさを感じた。
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 三頭を散歩をしているうちに気付いたことがある。
 牡と牝でマーキングの場所が違うようだ。サーシャとリリーはほとんど同じところで臭いを嗅ぎ、マークする。そこにアロハが加わるが、いつもとは限らない。彼は彼で別の場所に最初に興味を持ち、片足を上げることがよくある。牡と牝が共に興味を持つ情報と、牡だけまたは牝だけが惹かれるホットなメッセージがあるのだろう。
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 風がそよぐ日は気持ちがいい。彼らもまた風に向かって目を細めている。
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 アロハを河原で走らせたことがある。私の周囲を半径10メートルくらいの円を描きながら駆け巡った。ひと蹴りごとの動きがしなやかで、伸びやかで、思わず見とれてしまった。カメラを持っていなかったのが残念だ。
 帰り際、草むらのアリたちに目が行った。彼らは皆せっせと忙しそうだ。列をなして歩いては止まり、また歩く。互いにぶつかこともなく、メカニックな停止、歩行の繰り返しを続けている。
 彼らの世界を私たちの世界に拡大したら、あのスピードで、あの人口密度だったら、きっと勢い余って事故が多発するだろう。慣性力を瞬時にコントロールできなくなるだろうから。
 大型動物に見られる緩やかな動きは、この慣性力と形態の調和から生まれるのだと思ついた。
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